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私の夢まで、会いに来てくれた
3.11 亡き人とのそれから

東北学院大学の金菱清教授とゼミ生たちが
東日本大震災の被災地で集めた
「遺族が見る亡き人の夢」の記録、27編。
家族や友人との突然の別れを経験した人たちが
悲しみと向き合いながら前向きに生きる姿も描く。
大切な人を亡くした人への励ましともなる一冊。

東北学院大学震災の記録プロジェクト

ISBN-10:4022515333
ISBN-13:978-4022515339

朝日新聞出版 2018/2/20 271頁 18.8 x 12.8 x 1.8 cm

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目次

出版に寄せて

 本書は、私ども東北学院大学金菱ゼミナールで2016年11月より約1年近くかけて「震災遺族が見る亡き人の夢」をテーマに聞き取り調査を進めてきた成果報告書です。 震災において心の奥底に仕舞い込んでいるものとは何なのかという深いテーマと格闘してきました。 学生たちと一緒に100人近くの被災者の方にお話をじっくり伺いながら震災における亡き家族との夢での邂逅を明らかにしています。27編の体験談が収録されています。 まず亡き人の夢を震災のご遺族が見ていることが周知の事実ではありません。夢は家族に閉じられていて、それすら避けられる傾向にあります。 こうした、夢の「告白」は難攻不落の課題でした。その意味では、災害の夢をこれだけの規模で明らかにしたおそらく世界初の書物ではないかと思っています。

 映画『君の名は。』も夢を介しながら、夢見の時は鮮明なのに現実に戻ると相手の名前を忘れていく物語です。 ところが、震災で亡くなった人との夢は、遺族にとって、くっきりとした輪郭を持ちながら記憶されている場合が少なくありません。 それらは個別具体的です。 ある遺族は「おばけだぞ~」とおどけた口調で亡くなった奥さんが、かぶっと夫の鼻を噛んだとあります。 この噛んだりしたものは、単なる情景ではなく、〝触覚〟を伴った実感でもあります。夢から啓示を受けたと感じ、それを亡き人からのメッセージと解釈し、夢に自身の希望を重ね合わせることによって、夢を願望に変えて現実のものにしています。

 社会的に「孤立無援」だった遺族に対し、「孤立〝夢〟援」の存在として、亡き人がそっと温かく手を差し伸べてくれる世界が開かれています。 いつも励ましてくれる妹の存在、いつも気づかってくれる息子の存在、いつも言葉を交わし合う娘の存在です。 夢という他者が確認できないコミュニケーションの数々は、震災によって切り離されてしまった絆を確かな形を持って繋ぎとめていることがわかってきました。 「死んだら終わりなのか?」という問いに対して、私どもの今回のプロジェクトは明らかにNoを突き付けることになります。
 無為の為として耳を澄まして死者の声を聞き取ってみるならば、そこには時空を超えた私たちの死生観が開かれるとみています。 ぜひ手にとってご一読いただければ幸いです。帯は『想像ラジオ』のいとうせいこうさんに書いていただきました。

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