著書
3.11霊性に抱かれて
魂といのちの生かされ方
亡き人は今もそばにいる。本書は、魂の奥底から大切な人との再会を懇願したときに現れる“霊性”の世界観である。
被災地では悲しみを癒し、立ち直りを支える多様なツールが編み出されている。
一般的には、この世界から肉体が消えてしまった人びとは、過去の時勢に属することになる。
それに対して、生者がひたすら耳を澄ませて死者の声を聴こうとすると、死者は、過去と現在との境を越え、現在の時間に浸潤してくる存在になる。
霊性という死者と生者のあわいに着目しながら、「今は昔」語りが展開される。
“被災地タクシーの幽霊現象”で大反響を呼んだ「呼び覚まされる霊性の震災学」待望の姉妹編。
東北学院大学震災の記録プロジェクト
ISBN-10:4788515725
ISBN-13:978-4788515727
新曜社 2018/4/11 192頁
目次
- まえがき 二重の時間を生きるということ(金菱清)
- 第1章 霊が語られないまち――他者が判断する身内の死と霊性(赤間由佳)
- 霊現象が起こりうる環境
- 唐桑の人々と霊の向き合い方
- 他者が決める身内の死
- 霊性が支える「立ち直る力」
- 第2章 無力と弱さを自覚した宗教者の問いかけ――遺族の心によりそう僧侶(吉成勇樹)
- 宗教者とは
- 震災時の宗教者の活動
- 人間的な宗教者
- 震災時にあるべき宗教者の姿とは
- 第3章 手紙の不確実性がもたらす「生」の世界――亡き人とのつながりを感じるために(岩松大貴)
- 漂流ポスト
- 喪失・悩み・悲嘆
- 生き続けるということ
- 第4章 原発事故に奪われた故郷を継承する――牛の慰霊碑建立をめぐって(石橋孝郁)
- 双葉に建立された牛の慰霊碑
- 「屠ること」と殺処分の相違
- 殺処分のなかの相違
- 牛の慰霊碑に込められた継承の想い
- 第5章 原発事故関連死の遺族が「あえて」声を上げたのはなぜか――原発避難者としての自己確立(佐藤千里)
- 原発避難者たち
- 社会とつながる原発避難者
- モラル・プロテストとして声を上げる
- 原発事故関連死遺族としての生き方
- 第6章 風が伝える亡き人への言葉――風の電話のある空間の癒し(村上寛剛)
- 風の電話のある空間
- 風の電話のある場所
- それぞれの想い
- 風の電話のある空間のもたらす影響
- 第7章 地域コミュニティにおける「オガミサマ」信仰――魂のゆくえを見つめる人々(齊藤春貴)
- 東日本大震災による喪失
- 陸前高田にみるオガミサマ信仰
- 女性たちの行事と「お互い様」意識
- 震災後のオガミサマ信仰
- 「喪失」の受容とコミュニティの未来
- 第8章 最後に握りしめた一枚を破るとき――疑似喪失体験プログラムとアクティブ・エスノグラフィ(金菱清)
- 震災を「自分事」にするために
- 疑似喪失体験―12枚の大切なものとのお別れ
- 最後の1枚
- 最後の問い 人は死んだらどうなるのか
- 「さよなら」を伝える時間の猶予を保障する
- あとがき 東北学院大学震災の記録プロジェクト 金菱清(ゼミナール)
出版に寄せて
本書は、私ども東北学院大学金菱ゼミナールで2016年3月より約1年以上かけて「震災と死者のあわい」をテーマに聞き取り調査を進めてきた成果報告書です。 震災において心の奥底に仕舞い込んでいるものとは何なのかという深いテーマと格闘してきました。
いま、被災地では何が見え始めているのだろう。それは内なる目線を通せば、復興のあり方ではない。復興は、止まってしまった時間を再生の道へと誘うことになる。その過程のなかで、死者を置き去りにして、生(者のため)の復興が進められる。それに対して、私たちは霊性の立場をとる。霊性は死者と生者の織りなす時空間である。